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  3. <都市農地を生かしたまちづくり>都市農地の貸借で変わる都市生活

ニッセイ基礎研究所×野村不動産オリジナルコラム <都市農地を生かしたまちづくり>
都市農地の貸借で変わる都市生活

社会研究部
都市政策シニアリサーチャー
塩澤 誠一郎

1――都市農地貸借法によって生産緑地の貸借が可能に

2018年9月に、都市農地の貸借の円滑化に関する法律(以下、都市農地貸借法)が施行されたことで、生産緑地の貸し借りが可能になった。これまで生産緑地は、農地法の規定などから貸し借りが困難であった。したがって、農業後継者がいない農家が、高齢化などから営農継続が困難になった場合、あるいは、相続人が農業を承継しない場合、買い取り申出するという選択肢しか取れなかった。

今後は、そうした場合でも、生産緑地を借りて営農したい者に貸すことによって、農地を農地として維持することができ、都市の貴重な農地を残す可能性が広がった。

都市農地貸借法による貸借の仕組みは2つある。1つは、生産緑地を借りて農業経営を行う者に貸す仕組み(認定事業計画貸付け 図表1)。もう一つは、生産緑地を借りて市民農園を開設運営するために貸す仕組みである(特定都市農地貸付け 図表2)。

いずれの場合も、相続税納税猶予制度1を適用することが認められるため、農家は相続の心配をせず生産緑地を貸すことができる。

※1 相続した場合、終身営農することを前提に相続税の納税を猶予し、相続人が死亡した場合に納税免除となる

2――生産緑地を借りる者を想定すると

ここで、どのような主体が生産緑地を借りて、どのような農業経営を行うのか想定してみたい。

既存農家の生産規模拡大
第一に、既存の農家が考えられる。営農意欲の高い農家が、認定事業計画貸付けによって周辺の生産緑地を借りて生産規模を拡大し、より生産性の高い都市農業を営むことが想定される。貸す側の農家も、まずは普段から付き合いのある同業者に貸すことを考えるはずである。

新規就農希望者の就農
第二に、新規就農希望者が考えられる。生産緑地の貸借が困難であったために、これまで都市農業に新規就農希望者を受け入れること自体限界があったが、今後は、都市農業の担い手として受け入れることができる。規模が小さくても消費地に近いという都市農業の最大の利点を生かして、農業経営にチャレンジすることは若い新規就農希望者にこそ期待できよう。

民間企業による多様な農サービス
第三に、民間企業が考えられる。今後、企業が農家から直接生産緑地を借りて、都市住民に農園サービスを提供する事業が増えていくはずである。生産緑地法の一部改正によって、生産緑地地区内でレストランや直売所、加工施設の設置が可能となったことから、独自のアイデア、ノウハウを投じて、都市住民の多様なニーズに応じたきめ細かいサービスの提供が期待できよう。

非営利団体によるまちづくり
第四に、非営利団体が考えられる。社会福祉法人やNPOなどが生産緑地を借りて、都市部で障がい者等の自立支援の場や就労機会を提供するようになるだろう。農地というフィールド、機能を使って子育て支援、食育、環境学習など、地域に必要とされるプログラムを提供することもできよう。

3――農に携わる人の多様化とその効果

以上のように借り手を想定してみたが、実は既に生産緑地の貸借が成立した、あるいは手続き中といった事案が出てきている。2019年3月には、東京都日野市で生産緑地の貸借による新規就農者第1号が誕生した。それに続いて小平市で第2号が誕生している。近年、都市部で新規就農を希望する者が増えていると聞くが、実際に就農する者も増えていくと思われる。

他にも、民間企業が貸借によって市民農園を開設するケース、既に小規模な農園で子育て支援事業などを展開するNPOが貸借によって農園を拡大するケースなどが聞こえてきている。

このように、生産緑地の貸借が広がれば、新規就農者、民間企業、非営利団体など、農家以外に多様な主体が農に携わるようになる。それによってさらに都市農業への関心が高まれば、農家から直接作物を買い取って多くの消費者が集まる駅前で販売するといった形の流通業者が登場したり、農業者と都市住民の接点を多様なかたちで作ろうとする非営利の活動が生まれたりするのではないかと思う。

このように農に携わる人の多様化が進めば、都市住民が農に触れる機会が増え、都市住民と農の距離がグッと近づく。そこから都市住民が得るものは農作物に限らない。農作業を通じた体験や学びであったり、農を通じた人との交流やそれによって生まれる共感であったり、生産者の思いやこだわりといった農作物の背景にある物語であったりする。(図表3)

既に、農に関心のある多くの都市住民は、こうしたことを求めて自ら農にアクセスしようとしている。このように生産緑地の貸借によって、農業者や事業者にとってはビジネスチャンスが生まれ、都市住民にとっては、農を通じた豊かな都市生活がもたらされる。それが都市の価値を高めることに寄与するはずである。だからこそ、都市農地は保全し、農地として活用することを第一に考えた方がよいのである。

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