所有者不明土地の問題解決に向けた法整備~2020年までの制度改正を目指す~

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ニッセイ基礎研究所×野村不動産オリジナルコラム 所有者不明土地の問題解決に向けた法整備
~2020年までの制度改正を目指す~

総合政策研究部 研究員
・経済研究部兼任
鈴木 智也

拡大する所有者不明土地

日本全国で所有者不明土地が増加している。所有者不明土地とは、不動産登記簿等の公簿情報などをもとに調査しても所有者が判明しない、または判明しても所有者と連絡がつかない土地のことだ。国土交通省の資料によると、2016年度の地籍調査をもとにした推計で私有地の約2割が所有者不明、その規模は九州の土地面積(約368万ha)を上回る約410万haに達しているという。

根本的な問題は、日本の土地制度が所有権や利用実態を捕捉するのに十分な体制を整備できていないことにある。所有権の把握には不動産登記簿情報が通常使用されるが、権利登記は義務ではなく任意であり、所有者情報が更新されないまま放置されることが少なくない。法務省の調査によると、50年以上登記が更新されていない土地は地方で26.6%、大都市圏でも6.6%存在している(図表1)。情報が更新されないまま相続が発生すると複数の相続人が権利を継承し、相続が重なることで権利はさらに枝分かれする。また、日本の人口動態もこの問題を助長している。人口減少や高齢化は土地の利活用ニーズを減少させ、都市への人口流出は土地に対する権利意識を希薄化させる。さらに、登記にはコストも掛かるため価値の低い土地を相続しても、登記すればその分の費用が持ち出しとなってしまう。国税庁の統計では、相続財産における土地の割合は約4割。2025年以降、人口の多い団塊の世代で相続が発生すれば、所有者不明土地はさらに増加することが見込まれる。

国土資源の利活用を阻む

所有者不明土地は災害復興や地方創生の妨げとなる。災害大国日本では、南海トラフ地震や日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震など大規模な災害の発生が指摘されており、危機管理体制が構築されないままの状況は住民のリスクを高める。また、所有者不明土地の増加は森林管理や農地集約などの公共事業を妨げ、住民サービスを低下させてもいる。さらに課税面では、徴税の難しさから税収が減少し、地方財政の悪化にもつながっていく。これは地方創生にとって明らかにマイナスである。

所有権を把握・管理する仕組みの構築

政府も事態の打開に向けて動き出している。2018年6月に成立した「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」は、公益性の高い事業における所有者不明土地の利用を可能とする。土地の収用手続きは簡素化され、最大10年間の土地等使用権を設定することができるようになる。また、所有者が現れなければ使用期間を延長することも認められる。仮に、所有者が現れて引き渡しを求めた場合でも、期間終了後に原状回復して土地を所有者に返還すれば良くなる。同法施行により、今後、公的分野における所有者不明土地の「利活用」が進むことが期待される。再開発や復興事業などの障害が取り除かれれば、政府の進める地方創生やコンパクトシティの形成にはプラスとなるだろう。ただし、九州の土地面積よりも大きいと推計される所有者不明土地の利活用には公的分野の開放だけでは不十分であり、民間の利活用が可能となる仕組みも考えていかなければならない。今回の法整備は、同問題に対処するための第1歩と捉えるべきだ。

公益確保という喫緊の課題への応急処置は施された。次は、根本問題である所有者不明土地を「増やさない」仕組みを構築することが求められる。政府は、2020年までに相続登記の義務化や土地所有者権の放棄制度などを盛り込む、不動産登記法や民法などの関連法改正を目指す方針だ。2019年2月には、関係閣僚会議で示された工程表に沿って法制審議会の審議が開始された。審議では、所有者のモラルハザードや放棄された土地の帰属先、費用負担などの問題を広く扱うと見られる。調整が難しく一筋縄ではいかない課題ばかりではあるが、所有者不明土地の問題は時間が経つほどに深刻化していく。実効性のある結論を迅速に見出せるかが問われている。

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