機関投資家や年金基金は、不動産投資に対して、オルタナティブ投資全般に求める「分散投資効果」や「リターンの向上」の他、「安定的なインカムゲインの確保」を期待しています。特に物流施設は、オフィスや商業施設等と比較して賃料変動が小さく、契約期間も長期に渡ることから、この期待に即した投資対象といえます。
オフィスや商業施設等で投資適格物件が枯渇する中、不動産投資市場における物流施設の存在感は増しています。J-REITによる物流施設の新規取得額(2018年1月から9月までの合計)は4,789億円となり、2017年(年間)の3,369億円を上回りました。J-REITの新規取得総額に占める物流施設の割合も拡大傾向にあり、2018年は3割に達しています(図表1)。
日本不動産研究所「不動産投資家調査」によれば、2018年4月時点の物流施設(東京都江東区)の期待利回りは4.5%となり、過去最低水準まで低下しました(図表2)。
長期金利と、不動産投資対象として最も代表的なオフィスビルの期待利回りの差(イールドギャップ)は、2018年4月時点で3.5%と十分な厚みを持っています。欧米では金利上昇等に伴い、イールドギャップが縮小していることを鑑みると、日本の不動産に対して資金が流入しやすい状況にあるといえます。
一方、オフィスと物流施設の期待利回りの差は、2.0%(2016年4月)から1.0%(2018年4月)へ縮小しています。物流施設は、投資実績が積み上がったことで主要な投資対象として認知されつつあり、物流投資に対するリスクプレミアムは縮小しています。
2018年4月に行われた日本不動産研究所「不動産投資家調査(特別アンケートⅠ)」によれば、「物流施設の市況見通し」について、不動産投資家の約4分の3が、東京オリンピックまで(2020年~2022年頃まで)現在の状況が続くと回答しました。不動産投資家の多くは、物流施設投資が活況を呈し、低い利回り水準での取引が続くと見ているようです。
それでは、今後の物流施設投資に懸念材料はないのでしょうか。
前述の「不動産投資家調査(特別アンケートⅠ)」では、「今後のネガティブ要因」について、「金利上昇リスク」との回答が最も多く、次いで「突発的な偶発事象(政治や地政学上の問題、自然災害等)」が多い結果となりました。
「金利上昇リスク」に関して、日本銀行は、2018年7月末に開催された金融政策決定会合で金融政策の修正を発表しましたが、当面、現状の極めて低い金利水準を維持する方針をあらためて強調しました。金利が短期間で大幅に上昇する懸念はある程度払拭されたと思われます。
一方、2018年は、「大阪府北部地震」(2018年6月)、「北海道胆振東部地震」(2018年9月)、「平成30年台風第21号」(2018年9月)等、相次いで自然災害に見舞われました。「北海道胆振東部地震」では、地震の揺れによる荷崩れのほか、停電に伴い施設内の物流機器や冷蔵施設等が稼動できなくなり、物流が滞りました。また、「平成30年台風第21号」では、大阪府の湾岸エリア等で高潮によりコンテナが流される等の被害が出ました(図表3)。
改めて自然災害のリスクが認識される中、今後は、免震・耐震構造や災害用自家発電機、予備電源を備えた物流施設に、投資家の関心が集まると思われます。