日本の多くの都市は戦後、農地や樹林地を宅地にして市街地を広げてきた。それ故、都市の中に農地が残っており、大都市にこれだけ農地があるのは日本だけの特徴と言われている。しかし、これまで市街化区域内の農地はいずれ宅地化するものと考えられてきた。都市農地を保全するための制度である生産緑地地区も、将来的に公園や道路などの公共施設として利用することが前提になっている。
しかし、人口減少、高齢化が進行する中、生産緑地地区制度が設けられた30年近く前に比べ、宅地需要は低下しており、一方で、都市農業への都市住民の関心はかつてないくらい高まっている。
こうしたことを背景に、2015年に「都市農業振興基本法」が成立し、これに基づき「都市農業振興基本計画」が2016年に策定された。ここで、都市農地は宅地化すべきものから、都市にあるべきものへと方針の大転換がなされた。
この考え方を受けて、2017年に生産緑地法の一部改正(※1)が行われ、また、生産緑地の貸借を円滑化する法案(※2)が今国会に提出され成立する見通しとなっている。このように一連の法制度改正によって、都市農地の保全と、都市農地を生かしたまちづくりに大きく舵を切ったのである。
生産緑地地区は、主たる農業従事者が死亡または故障によって従事困難になったとき、あるいは指定から30年経過したときに、当該市区町村に買取り申出をすることができる。買取り申出した生産緑地は、多くの場合宅地に転用される。2022年が最初の指定から30年の年になることから、東京ドーム約2,300個分の生産緑地が一斉に宅地化するのではないかと懸念されてきた。それが、2022年問題として話題になっているところである。
しかし、前述のとおり都市農地の保全に向けて法制度が拡充され、直近の意向調査結果からは30年買取り申出を決めている農家は少ない。また、市街化区域内には生産緑地に指定していない農地(宅地化農地)も多く存在していて、これらはいつでも宅地化できる。このような状況を冷静に分析すると、2022年を機に宅地に転用する生産緑地は、限定的というのが筆者の見通しである(※3)。
そうしたことから、2022年問題はむしろ、一部の貴重な都市農地が失われる問題として捉えた方がよい。限定的とは言え、何らかの事情で生産緑地を宅地化する農家は一定程度あるだろう。そのときにどのような宅地にするのか、どのような土地利用を行うのかが、まちづくりの観点から重要になる。
そしてそのようなまちづくりは地域特性に応じて異なってくるはずである。2022年に向けて都市農地を生かした新たなまちづくりを行っていく必要がある。
図表1は、首都圏の市区町村別に市街化区域内農地について、生産緑地と宅地化農地の比率を表したものである。概ね東京都心部に近い市区の生産緑地比率が高く、都心から離れるほど宅地化農地の割合が高いことが分かる。これは宅地需要を反映しているものと考えられ、東京都区部は既に宅地化農地は限られており、宅地需要層からは生産緑地の宅地化が期待されているとも言える。しかし、見方を変えれば、それだけ農地が貴重だと言える。
図表2は、市街化区域人口密度と人口一人当たり農地面積を軸に、市区別に位置を表したものである。前者は住宅宅地需要を示し、後者は農地需要を表していると考えてよい。人口密度が高いほど、一人当たりの農地面積は小さいという関係が成り立っている。
住宅需要が高く、一人当たり農地面積が小さい地域(図中A)は、農地が貴重な地域と言える。反対に、人口密度が低く、一人当たり農地面積も低い地域(C)は、豊かな農地を有する地域と言え、こうした特性の違いから、それぞれに農地を生かしたまちづくりのあり方は異なるはずだ。
例えば、Aの地域では、あえて農地を残した形の住宅を供給し、農に触れたい都市住民のニーズに応える形で居住者を呼び込む。Cの地域では、田園風景を生かして、それを高めるようなゆとりある住宅供給により、のびのびと子育てしたい層を呼び込む。といったまちづくりが考えられないだろうか。
2022年に向けて、こうした農地を生かしたまちづくりに、農家や行政はもちろん、都市住民が関心を持つことが重要である。なぜなら、農地が都市にあることの効能は、必ずや都市住民の生活に資するものになると思うからなのである。
※1:特定生産緑地指定制度の創設、指定面積要件、行為制限の緩和がなされた。
※2:「都市農業の貸借の円滑化に関する法律案」
※3: 詳しくは拙著「2022年問題の不動産市場への影響~ 生産緑地の宅地化で、地価は暴落しない ~」基礎研レポート2018/03/20参照http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=58199?site=nli