2017年の大規模賃貸物流施設の新規供給量(全国ベース)は300万m²(※1)を超え、過去最高水準となりました。今後も、活発な大規模物流施設開発は続くのでしょうか。本稿では,①テナント需要、②金融機関の貸出態度、③期待利回り、④用地取得、⑤建設費の5つの観点で考えたいと思います。
大規模賃貸施設の主なテナントとして、3PL(※2)事業者などの物流事業者とインターネット通販事業者が挙げられます。
物流の現場では、物流業務の高度化や業務効率化の要請等に伴い、3PL事業者などの物流事業者への外部委託が進んでいます。今後も、経営資源のコアビジネスへの集中等の目的から、物流業務の外部委託は進み、3PL市場規模の拡大が見込まれます。
経済産業省「電子商取引に関する市場調査」(平成28年度)によれば、物販系ECの市場規模は、堅調に拡大しており、2016年は8兆円に達しています。今後も、全人口に占めるITリテラシーが高い世代の割合が増えることで、更なる市場拡大が見込まれます。
3PL 市場とEC市場の成長に支えられ、大規模物流施設への需要は今後も底堅いと思われます。
2017年の物流施設発注額(全体)は、不動産業の発注額増加が寄与し、2007年以降で過去最高水準(約8,200億円)となりました(図表1)。不動産業の発注額は、金融機関の貸出態度に影響を受けています。足元(2018年3月期)の貸出態度DI(不動産業)は+20となり、良好な状況が続いています。
日本不動産研究所「不動産投資家調査」(2017年10月)によれば、物流施設の期待利回りは、低金利環境等に伴い、過去最低水準まで低下しています。期待利回りの低下(価格の上昇)等を受けて、2017年には東急不動産や新日鉄興和不動産、日本エスコン等が、物流施設開発に新規参入する等、開発事業者の数も増加しています。
国土交通省「公示地価」(平成30年)によれば、工業地価は、東京圏では5年連続、大阪圏と名古屋圏では、3年連続で上昇しています。また、「平成30年地価公示結果の概要」では「インターネット通販の普及等もあり、道路アクセスの良い物流施設の建設適地では大型物流施設建設に対する需要が旺盛」と指摘されています。物流施設に適した用地は枯渇し、用地価格は上昇している模様です。ただし、政府は、2017年7月に農地法などの政令改正を閣議決定し、農地を物流施設等に転用可能とする方針を示しています。改正後は、開発用地が多く供給される可能性があります。
建築費指数は、円安や輸送費の増加等に伴う建築資材価格の上昇や、建設技能労働者の不足等に伴い、2016年後半以降上昇傾向で推移しています(図表2)。直近1年では、「倉庫」の指数が最も上昇しています。今後も、生産年齢の人口減少に伴う人手不足の深刻化や、東京五輪開催に向けた建設需要の高まり等から、建築費は下がりにくい状況が続くと思われます。
大規模賃貸物流施設のテナント需要は底堅く、物件価格も上昇しています。金融機関の貸出態度は良好で、開発用地の供給も見込まれることから、活発な開発は継続しそうです。しかし、総供給量(ストック)の急拡大(2017年;約1,830 万m²→2019年;約2,600 万m²)(※3)や建築費の上昇が開発の重石になる可能性があり、今後の動向を注視する必要があります。
※1:日本ロジスティクスフィールド総合研究所「2017 年の物流不動産マーケットの振り返りと今後の見通し」
※2:Third Party Logistics:荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託し遂行すること。
※3:日本ロジスティクスフィールド総合研究所「2017 年の物流不動産マーケットの振り返りと今後の見通し」