人口減少時代の行政サービスとは?地方でも住みたい街

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ニッセイ基礎研究所×野村不動産オリジナルコラム 人口減少時代の「行政サービス」
~「住みたい街」とは、「納税したい街」~

社会研究部 主任研究員 土堤内 昭雄

減少する「税収」と増加する「行政サービス」

日本は少子高齢化・人口減少という大きな構造変化の中にあります。国立社会保障・人口問題研究所の平成29年の推計では、50年後の日本の総人口は現在より3,900万人減少、その約8割は15歳~64歳の生産年齢人口で占められています。日本の人口構造変化は、現在と相似形で縮小するのではなく、生産年齢人口の大幅な減少を伴うものなのです。

人口構造の変化はわれわれの日常生活に深く関わる「行政サービス」のあり方にも大きな影響を与えます。住民の高齢化が進み、年金生活者が増え、担税力のある住民が減り、税収が減少します。一方、高齢者の社会保障支出が増加し、地域で長い時間を過ごす退職者などの行政サービスの需要増加が見込まれます。

総務省『平成28年版 地方財政白書』をみると、地方自治体の経常収支比率(毎年支出が必要な人件費や公債費等の義務的経費が一般財源等に占める割合)は過去11年間連続で9割を超えています。地方財政は社会経済や行政サービスの需要変化に対応する弾力性を失い、適切な行政サービスの提供や維持が難しい状況になることが懸念されます。

新たな「行政サービス」のあり方

この状況を打開するためには行政サービスに対する適切な受益者負担を求め、その効率化と適正化を図ることが必要です。また、すべての行政サービスを「公助」に頼るのではなく、住民を行政サービスの「担い手」としても位置づけ、地域の退職者などを活用した「地域力」に基づく「共助」を拡大することも必要でしょう。

日本では有形無形にかかわらず、「サービス」とは無償と思われがちです。しかし、本来の「付加価値の提供」であるサービスは適正価格であるべきで、行政サービスといえどもすべて無償を前提とするものではありません。われわれは豊かな暮らしを実現するための行政サービスのあらたな「受益と負担」の関係を問い直すことが必要です。それは人口減少時代の産業、経済、社会が持続可能であるために不可欠なことだからです。

日本の労働生産性はアメリカの約6割で、特にサービス業では低いと言われています。その一因は、無償サービスの提供やサービスの過剰品質などにあるのかもしれません。付加価値の高いサービスに対して適正な対価を支払うことが、日本の労働生産性の向上と「働き方改革」につながり、デフレ脱却の鍵になると思われます。

「ふるさと納税」と「住みたい街」

行政サービスの財源となる税金は、よく「取られる」と表現されます。多くの勤労者が、源泉徴収されるために能動的に税金を納めるという意識が薄いからではないでしょうか。行政サービスに対する住民満足度を向上させるためには、住民自身が市政参加を通じて税金の使い道を意思表示し、「税金を納める」という意識の醸成が重要です。

近年、「ふるさと納税」が増えています。返礼品の受け取りを目的とする人が多いものの、平成28年度の寄附金の受入金額は約2,844億円、受入件数は約1,271万件に上ります。欧米では寄付行為が「選択納税」とみなされるように、寄付先を選べる「ふるさと納税」は、納税者が使途を選択できる一種の選択納税制度とも言えます。

今後、人口減少時代に持続可能な行政サービスを提供するためには、「取られる税金」から「納める税金」へ住民の意識転換が必要です。そのためには行政の意思決定のプロセスに住民が参加、税金の使途を「可視化」することが重要です。それが地域アイデンティティを醸成し、住民の定着や若い世代を呼び込む人口減少対策になるのではないでしょうか。住民が自分たちの住んでいる地域に「ふるさと納税」をしたくなるような「納税したい街」こそが、住民が選ぶ「住みたい街」であり、愛着を感じる「ふるさと」なのかもしれません。

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