労働人口減少時代の「働き方改革」

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ニッセイ基礎研究所×野村不動産オリジナルコラム 人口減少時代の「働き方改革」

社会研究部 主任研究員 土堤内 昭雄

「人口減少」乗り越える労働生産性の向上

政府が「一億総活躍社会」を目指す背景には、わが国の急速な人口減少に対する強い危機意識があります。2015年の国勢調査結果では、わが国の総人口は1億2,709万5千人と前回の2010年調査から96万3千人減少しました。都道府県別ではこの5年間に人口が増加したのは8都県のみで、残る39道府県では減少。全国1,719市町村をみても、全体の82.5%に当たる1,419市町村で人口が減っています。

経済成長を維持するためには就業人口の確保と同時に、労働生産性の向上が不可欠です。『日本の生産性の動向2016年版』(日本生産性本部)によると、2015年の日本の労働生産性は「一人当たり」74,315ドル(783万円/購買力平価換算)で、「時間当たり」42.1ドル(4,439円)とOECD35カ国中22位と20位、米国の約6割の水準にとどまっています。

近年、長時間労働により貴重な命が奪われるという痛ましい事件が続き、長時間労働の是正が「働き方改革」の本丸になっています。わが国は労働時間延長による「一人当たり」の生産性向上ではなく、「時間当たり」の労働生産性向上という抜本的な「働き方改革」を断行することにより、人口減少時代を乗り越えなくてはなりません。

「長寿化」に対応する柔軟な働き方

内閣府『平成28年版高齢社会白書』によると、2060年の日本人の平均寿命は、男性84.19歳、女性90.93歳に達します。一方、公的年金・恩給が総所得の全てである高齢者世帯は56.7%に上り、貯蓄の主な目的は「病気や介護への備え」が62.3%を占めています。また、就労を希望する高齢者の割合は約7割あり、高齢期の健康や家計に対する不安の大きさがうかがわれます。

リンダ・グラットンほか著『ライフシフト~100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社、2016年)では、人々は「長寿化」により一層長い年数働かなければならなくなると指摘しています。長寿化時代には、これまでのように就学期間が終わって新卒採用され、定年を迎えるまで終身雇用が保障されるような働き方は珍しくなると思われます。

長寿化により就業期間が50年以上にもおよぶ一方で、同じ産業や企業がそれほど長期にわたり存続するとは限りません。また、以前のOA化やIT化が示すように、われわれが持つ職業スキルも生涯にわたり通用するわけではありません。今後、ロボットやAIの普及にともない、常に職業スキル向上のための自己投資が必要になるでしょう。

今後、長寿化社会では体力・知力の衰えや人間関係の変化に応じて、時間や場所等に制約されない柔軟な働き方が求められます。職業能力を高めるためには、キャリアを一時的に中断することも必要になるかもしれません。長生きリスクを乗り越え幸せに生きるためには、新たな自己投資による多くの有形・無形の“資産づくり”も重要な「働き方改革」になるでしょう。

AI(人工知能)の活用

日本の将来の労働力人口の減少は疑う余地はありません。しかし、それは労働力不足を意味するのでしょうか。ロボットがルーチン的な仕事しかできなかった時代から、AIやビッグデータを活用し、知的な仕事を代替する時代が確実に迫っています。AIの発達は、人間本来の創造的領域にまでおよび、これまで人間以外には困難と考えられてきた既存の多くの仕事も代替される可能性が高いのです。

人口減少は今後の「働き方」に大きな影響を与えるでしょう。しかし、AIが労働力人口減少の歯止めとなり、長寿化社会の柔軟な働き方の実現に寄与することも期待できます。一方、人間はAIにより「仕事を奪われる」のか、「仕事から解放される」のか、われわれの従来の労働観は根底から揺さぶられることでしょう。将来の「働き方改革」は、『人間は何のために働くのか?』という根源的な問いを投げかけることになるかもしれません。

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