個人や企業が持つモノやスペースなどを共有したり、貸し借りをする「シェアリングサービス」の勢いが増しています。総務省「平成30年版情報通信白書」によると、シェアリングサービスの数は増加傾向にあります。確かに街を見渡すと、コインパーキングではカーシェアリングサービスの看板をよく目にするようになりましたし、スマホのフリマアプリを使った中古品の売買など、個人間のやりとりも活発です。
シェアリングサービスは、どのような消費者に好まれているのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の生活者1万人を対象にした調査(※1)に基づいて、その特徴を見ていきましょう 。(※2)
調査では「中古品でも、気にしないで買う方だ」「ネットを通じて個人からモノを買うことに抵抗はない方だ」「モノは買うより、できるだけレンタルやシェアで済ませたい」といったシェア志向に関する問いを用意し、これらへのあてはまり度が高い層をシェア志向の強い消費者としました。
分析の結果、シェア志向は、男女とも若いほど強く、同じ年齢では女性より男性で強い傾向がありました。一方で、フリマアプリは専業主婦をはじめ、女性の方が積極的に利用している印象が強いかもしれません。しかし、ここで言うシェア志向とは、フリマアプリだけでなくオークションや民泊、カーシェアなども含めたシェアリングサービス全体の利用意向の高さを示しています。よって、全体で見れば男性の方がシェア志向は強いということになります。
若者や男性でシェア志向が強い理由は、シニアや女性と比べて、実店舗よりネット通販で買うことを好んだり、ネット上の個人間売買への抵抗が弱いためです。このほか、若者は日ごろからネット情報をよく見ていること、男性はスマホを使った決済に積極的であることも影響しています。
職業別には、学生や公務員でシェア志向が強い傾向があります。どちらも他の職業と比べて中古品を気にしない傾向があるためです。ただし、学生はネットの口コミなど多くの情報を見た上で中古品でも気にしない、公務員は消費に対して堅実で慎重なために中古品でも気にしないという違いがあります。
年収別には、とにかく安くすませたいという理由で、男女とも年収300万円前後でシェア志向が強いのですが、男性では年収1千万円前後でも強くなっています(図)。
実は男性では、年収1千万円までは年収の増加とともに「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する」というコストパフォーマンス意識が高まります。また、年収1千万円前後の男性の消費行動には、自分の価値観やライフスタイルを重視したり、ネット上の個人間売買への抵抗が弱いという特徴があります。つまり、年収1千万円前後の男性は安くすませたいというよりも、モノによっては(例えば、あまりこだわりのない消耗品など)コスパを重視するという合理的な判断のもとで、シェアリングサービスを利用しているようです。一方で、年収1,200万円を越えるとシェア志向もコスパ意識も低下します。経済的に余裕が出ることに加えて、年齢層が高くなるためでしょう。
このほか、シェア志向は小学生以下の子を持つ親でも強くなっています。今の子育て世帯にはデジタルネイティブのミレニアル世代も増えてきたために、サービスを上手く活用しているのでしょう。この世代は、モノがあふれる中で生まれ育ってきたために、モノの所有欲が弱く、モノを所有するよりも必要な時に利用できればそれでいい、という考え方が強い傾向があります。
総務省「通信利用動向調査」によると、2018年に60代のスマホ保有率がガラケー保有率を上回るようになりました。今後、シニアもスマホのアプリを使いこなすようになれば、モノの所有より利用という価値観は幅広い年代へと広がっていくでしょう。既存企業はシェアリングサービスと上手く共存するとともに、シェアでは得られない付加価値を生み出すことが生き残る鍵です。
※1:「家計消費と生活不安に関する調査」、調査対象:全国の 20~70 歳代の一般個人、調査手法:ネットリサーチ、実施時期:2017 年4月、調査機関:株式会社マクロミル、有効回答数 10,305(男性 5,153、女性 5,152)
※2:詳細は久我尚子「シェアリング志向が強いのは誰?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/6/25)参照。