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ニッセイ基礎研究所×野村不動産オリジナルコラム トランプ大統領就任による
日本国内の賃貸不動産市場への影響

金融研究部 主任研究員 増宮 守
執筆者 金融研究部 主任研究員 増宮 守

2016年11月の米国大統領選でトランプ氏が勝利して以来、金融市場では楽観的な見方が広がっています。政策に掲げた減税や財政支出、規制緩和などが米国経済の成長を加速するとの見方から、米国株が市場最高値を更新しました。円安ドル高も進み、図表-1のように2015年から下落していた日本株も、その間の下落分を回復しつつあります。不動産については、2015年に株価のような価格下落はみられませんでしたが、2016年以降は横ばいあるいはやや弱含みの推移となっています。

株価及びJ-REIT価格と中古マンションおよびオフィス取引価格の推移

今後の不動産価格の推移が注目されますが、今回は米国経済が金融市場の期待通りに成長する場合、国内の賃貸市場がどのような影響を受けるかについて考えてみます。まず、直接的な影響といえる米国企業や米国人による賃貸需要は拡大するでしょうか?

リーマンショック以前には、多数の米国企業が都心でオフィススペースの確保を競い合い、東京のオフィス賃料の上限を大幅に引き上げていました。当時は高所得の駐在員も多く、例えば、直近の2017年2月に3,162人だった港区の米国人住民数は、2009年1月には4,985人に及んでおり、高級マンションの賃料も高騰していました。

しかし、今後のアメリカファーストに基づく米国経済の成長を考えると、内向きになった米国企業がリーマンショック以前のように積極的に日本進出に動くとは思えません。たしかに、米国経済の成長で円安ドル高が進めば、東京の賃貸コストはドルベースで安くなります。しかし、その分、日本の消費市場の規模や日本事業の売上もドルベースで縮小するため、円安ドル高によるコスト低下だけで日本進出が増加するとはいえないでしょう。

また、リーマンショック以前には、米国企業が東京にアジア事業の統括オフィスを構えるケースが多くみられました。しかし、最近では、アジア事業の統括オフィスはシンガポールが選ばれ、また、中国市場をターゲットに上海や北京にオフィスを構えるケースも増加しています。ターゲット市場に近いだけでなく、オフィスコストも図表-2のように東京より安いことから、これらの都市の競争力は高く、東京でのアジア統括オフィスの誘致は難しくなっています。

アジア主要都市のオフィス賃料相対比較

このように、米国経済が成長する場合も、直接的な米国企業や米国人による賃貸需要の拡大はなかなか見込めない状況です。やはり、米国事業から恩恵を受ける日本企業や、さらには日本経済全体の成長を背景とした賃貸需要の拡大が求められます。
多くの日本企業が米国に輸出し、また米国で事業展開しているため、概して、米国経済の成長で円安ドル高になれば、輸出の増加や現地利益の日本円ベースでの増幅が期待できます。また、一部の業種では特にトランプ政権の恩恵が期待され、たとえば、金融機関については、金利上昇による利鞘拡大や、市場規制緩和のメリットが見込まれています。

しかし、近年、日本の製造業各社は海外生産にシフトしており、円安ドル高による恩恵が小さくなっています。さらに、グローバリズムから保護主義への転換が進めば、米国経済から日本経済への成長の波及効果は一層限定的になるとみられます。また、製造業以上に賃貸オフィス市場に占める比率が高い非製造業では、円安ドル高によるコスト増が業績を圧迫するケースにも注意が必要です。

このように、米国経済の成長は、必ずしも直接的にも間接的にも日本国内の賃貸需要の拡大に繋がるとはいえません。今後も市場全体の需要の伸びを過信することなく、運営努力で各物件の競争力を維持、向上することが重要でしょう。米国経済の成長に伴う日本国内のインフレおよび金利上昇局面を見据えると、賃料の引き上げが可能な物件と難しい物件で格差が生じるとみられます。不動産投資については、金利上昇による資金調達コストの増加を賃料の引き上げでカバーできる物件を選別したいところです。

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